Webレクチャー

Webレクチャー

交渉学についての連載講座・記事です。

NPO法人 日本交渉協会理事 窪田恭史

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(13)-確率判断における認知バイアス-

人の認知は確率判断が苦手である。今回は、確率判断における認知バイアスとして、「連言錯誤」、「基準比率の無視」、「少ないサンプルの予測力の過小評価」を取り上げる。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(12)-モンティ・ホール問題-

ベイズの定理と直感的な推論がずれることの有名な例に、「モンティ・ホール問題」と呼ばれるパラドックスがある。モンティ・ホールとは、“Let‘s Make a Deal”というアメリカのバラエティ番組の司会者の名前であり、同番組を例にした以下のような問題である。読者は選んだドアを変えるだろうか?それとも、そのままにするだろうか?

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(11)-ベイズの定理-

ある事象Aが起こったという条件のもとでの事象Bの確率(条件付き確率)が成り立つ定理を「ベイズの定理」といい、18世紀の数学者、トーマス・ベイズによって示され、その後、ラプラスによって再発見・発展した。意思決定論とは、ある情報を得て次にどの行動をとるのが最善かを決める理論のことであるが、その決定にベイズの定理を用いた意思決定をベイズ的意思決定という。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(10)-損失回避性批判(2)-

科学とは「コンセンサスを通じて科学的真実を定義する、本質的に社会的なプロセス」であり、証拠は主観的世界観、あるいは科学者がある時点で受け入れている信念に照らして評価される。クーンはそのような科学を「正常科学」と呼び、「一つまたはそれ以上の過去の科学的成果、ある特定の科学界がさらなる実践の基盤を提供するものとして、一時的に認めている成果に基づいた研究」と定義している。この「成果」をクーンは「パラダイム」と呼び、科学界で採用されるには、その他の科学研究領域からの支持者を引き付けるため、前例がなく、研究者が探求し、パラダイムを構築するための未解決の問題を残していなければならないと主張している。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(10)-損失回避性批判(1)-

従来の期待効用理論を批判する形で起こった「プロスペクト理論」、およびそれを土台として発展した行動経済学は今や隆盛を極めている。カーネマンが「損失回避の概念は行動経済学に対する心理学の重要な貢献である」と述べているように、行動経済学の中核概念は、利得よりも損失を避けようとする人間の心理傾向、「損失回避性」であるが、この損失回避性については、近年批判も出始めている。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(9)-効用理論に戻れ(3)-

Q3’、Q4’は、Q3、Q4の利得を損失に変えたものであることが分かる。Q4’の方は損失の期待値がやや低いDを選択した方がわずかに多かったので、これは期待効用理論の観点からも理解できる。問題はQ3’の方である。Aの方が損失の期待値がわずかに大きいが、それにもかかわらず圧倒的多数の92%がAを選んだのである。これはどういうわけであろうか?カーネマンらの説明によれば、人は損失を嫌う、したがって、確実な損失を回避するため、リスクをとる傾向にあるというものである。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(9)-効用理論に戻れ(2)-

期待効用理論で考えれば、AとB、CとDの確率的利得の比率は、共に16:15である。つまり、選択されるのはAとC、BとDのいずれかであるのが合理的である。そして、期待値はAとCがいずれも高いので、AとCが合理的選択となる。ところが、実験結果はBとCであり、しかもQ3では80%という圧倒的比率でBが選ばれた。考えられるのは、Q3については前回同様、損失回避性により確実な方が選ばれたということ、Q4についてはどちらも当たる確率が低く、両者の確率の差も大きくないので、そうであれば金額の大きい方に賭けてみようというものだ。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(9)-効用理論に戻れ(1)-

ライファはカーネマンやトヴェルスキーの主張するプロスペクト理論を否定してはいない。期待効用理論が現実の人間行動を上手く記述できないことも認めており、”Negotiation Analysis”の中でも行動意思決定論の研究成果をしばしば取り上げている。それでもライファは、より良い意思決定を行う手法として期待効用理論は依然として有用であると考えており、1985年に”Back from Prospect Theory to Utility Theory”という論文を著している。交渉分析において、交渉相手の行動や戦略を記述的に説明したり予測したりするには、行動意思決定的分析が優れており、その上で交渉当事者が意思決定の処方を下すための規範を示すのには従来の決定分析が優れていると、それぞれ役割が異なるとライファは考えていた。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(8)-期待効用理論に対する批判-

前回述べたように、期待効用理論は現実の人間の行動を説明するものではないとする批判も多い。その先鞭ともいえるのが、「アレのパラドックス」である。1988年にノーベル賞を受賞した、経済学者のモーリス・アレは、1953年にニューヨークで行われた会議において、以下のような実験を行い、実際の人間が期待効用理論には従わないということを示した。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(7)-リスク下の意思決定-

経済学者のフランク・ナイトによれば、リスクとは「確率が分かっている不確実性」を言い、確率が分からない真の「不確実性」とは区別する。代替案にリスクがある場合、その代替案がどのような結果となるかは、確率的にしか分からない。起こる結果の価値分析の方法には、「定性的順序」、「貨幣価値」(EMV)、「望ましさの価値」(EDV)、「効用価値」(EUV)の四つがある。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(6)-等価交換-

ミラーは帰結表を作り直す(表1)。表を眺めると、3つの代替案については通勤時間がほぼ同じであることが分かる。バラノフの通勤時間が等価交換で25分になれば、代替案すべての通勤時間は同じになり、目的から外すことができる(これは期待効用理論における独立性の公理と同じ考え方である)。ミラーは、バラノフの通勤時間の増加分をクライアントへのアクセスの8%の増加で埋め合わせることができると決定する。慎重に検討した結果、彼は交換を行い、通勤時間を無意味にする。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(5)-等価交換-

意思決定において、すべての目的を同時に達成できればよいが、常にそのようにできるとは限らない。その場合、目的間でトレードオフを行い、いかに妥協をするかを考えなければならない。しかし、トレードオフを行うのは容易ではない。トレードオフを難しくしている要因には、以下のようなものが挙げられる。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(4)-PrOACT法-

目的とは、意思決定で本当に達成しようとしているもののことである。人間は、記憶から簡単に呼び出すことができる情報に頼って判断してしまうという傾向がある。これを「利用可能性ヒューリスティック」という。しかし、より良い意思決定を行おうとするのであれば、情報の入手可能性や容易さによって目的を制限すべきでない。目的は、次の代替案を評価するフェーズの基礎となるので、極めて重要である。特に重要な意思決定を行う場合、深い自己分析を行わなければ、本当に大切な目的は浮かび上がってこない。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(3)-PrOACT法-

ライファと教え子でもあるハモンド、キーニーは、1998年、長年培ってきた決定分析のノウハウを専門性・学術性を排し、誰もが恩恵を享受できるようにした画期的な書、”Smart Choices”を発表した。これは大きな反響を呼び、20万部以上売れ、15か国語以上に翻訳された。日本でも翌年ダイヤモンド社より『意思決定アプローチ-分析と決断』として発売されたが、海外での評価の割に日本での知名度はイマイチであった。筆者の知る限りでは、「ラジオ英会話」2005年11月号の連載記事『英語で学ぶMBA実践講座』において、この”Smart Choices”の中心テーマである意思決定プロセス、PrOACT法が紹介されていたぐらいである。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(2)-価値焦点ブレインストーミング-

「三人寄れば文殊の知恵」という。英語でも同じような諺に” Two heads are better than one”というのがある。いずれも個人より集団思考の方が創造的で多くのアイデアを生み出せるという意味である。しかし、集団思考がかえって物事を多様な視点から批判的に評価する能力を欠落させる可能性がある。これを「グループシンク」という。グループシンクは、集団の凝集性が高い場合、外部と隔絶している場合、支配的なリーダーが存在する場合などに特に起こりやすいという。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

決定分析(1)-価値焦点思考-

決定分析とは、個人の意思決定について価値・不確実性といった事象を数学的に確定することで、「最善の意思決定」を規範的に導き出し、それを現実の意思決定に具体的に応用することを言う。1970年代までの交渉に関する議論は、完全合理的個人、完全情報といった前提に基づく規範的分析が主流であった。ライファは、規範的分析をあくまで現実の人間と対峙する交渉者が実際に利用できる処方的助言を提供しようと試みた。これを交渉の「決定分析的アプローチ」という。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉者のディレンマ(2)

「兵とは、詭道なり」(『孫子』計篇)というように、交渉もまた相手の協力姿勢が本当に価値創造を志向しているとは限らない。協力する振りをして、一方的にこちらを搾取することを意図しているかもしれないのである。問題は、価値創造のための協力行動の真偽を見極めるのが難しいということである。そこで今回は、「偽りの創造戦術」として起こりうる幾つかのパターンを取り上げ、それに対する対抗戦術を取り上げたいと思う。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉者のディレンマ(3)

価値創造と価値主張の間の緊張をマネジメントする手段として、交渉そのものの枠組みの変更を考える。つまり、交渉を今一度俯瞰し、より望ましい交渉範囲や手順を考えるのである。D.ラックスとJ.セベニウスは著書『3D交渉術』の中で、この「ゲームを変える」ことを「セットアップ」と呼び、交渉戦術(一次元)、交渉設計(二次元)に続く、交渉の新たな次元(三次元)として重視している。ここでは、その「ゲームを変える」手段として、「調停」、「単一交渉草案」、「合意後の合意」を採り上げる。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉者のディレンマ(1)

双方が協力し価値を創造すれば、価値を奪い合うよりお互いの利得を高めることができる。双方ともそれが分かっているにもかかわらず、もしこちらが協力し、相手が裏切れば、こちらは大きな損害を被ることになってしまう。互いがそのように考えた結果、全体としては望ましくない結果に均衡してしまう。これは前回取り上げた、ゲーム理論の「囚人のディレンマ」と同じ構造である。故に、この価値主張と価値創造の間の緊張関係は「交渉者のディレンマ(Negotiator’s Dilemma)」と呼ばれている。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉の準備について(2)

「準備はすればするほど良い、ゆえに可能な限りのリソースを準備に投入せよ」というのが交渉の準備に対する一般的な認識である。しかし、交渉開始前に果たしてどこまで準備すれば十分と言えるのであろうか?そのような目安は存在するのか?逆に準備し過ぎることによる不都合はないのか?「境目の問題」につ
づく交渉プロセスの前提への第二の疑問として、準備の「限界」の問題を取り上げる。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉の準備について(1)

交渉の成否は準備が8割、9割とも言われるように、交渉における準備の重要性は誰もが認めるところであり、交渉者にとって最も重要なタスクの一つと見なされている。ところが、その「準備」が何を意味するのか、交渉プロセスの中のいかなる部分を指しているのか、あるいはどの程度まで準備を行えばよいのかなどについては、意外と曖昧なままにされてきた。今回は、M.ワトキンスとS.ローゼン(2001)から、彼らのこれらの問いに対する答えと、従来の準備の「三段階モデル」に対して彼らが提唱した、準備の「学習と計画の循環モデル」を紹介したいと思う。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉のゲーム的要素を学ぶ

「交渉分析」のベースには「ゲーム理論」がある。“Negotiation Analysis”でも分配型交渉の分析や統合型交渉における価値の分配の問題、多数者間交渉における連合形成の分析などを行うにあたり、ゲーム理論が多用されている。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉アナリストとは何か?(2)

「ハワード・ライファ先生について」でも述べたように、1950年代から決定論とゲーム理論研究を牽引したライファは、次第にその関心を交渉へと移し、1982年に決定論とゲーム理論を交渉の問題解決に適用する”The Art and Science of Negotiation”を著した。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

交渉アナリストとは何か?(1)

交渉アナリストが何なのかについて、もちろん協会として定義がある。例えば、交渉アナリスト1級とは、「高い交渉力を持って、社会に貢献できる人」というのが定義である。しかし、その定義によって何故「アナリスト(analyst)」と称するのか?何故、単に交渉を実践する「ネゴシエーター(negotiator)」ではないのか?アナリストというからには、交渉を何らかの形で「分析する人」のあるはずである。では、交渉を分析するとはどういうことなのであろうか?そして何故交渉を分析することが「高い交渉力を持って、社会に貢献できる人」につながるのであろうか?今回は二回にわたり、名称の由来である“Negotiation Analysis”の構成を紐解きながら、その疑問について考えてみたい。

窪田恭史氏による交渉学Web講座

ハワード・ライファ先生について

交渉アナリストという資格名は、ハーバード大学名誉教授、故ハワード・ライファ先生(1924‐2016、以下敬称略)が2002年に著した交渉分析の大著、” Negotiation Analysis: The Science and Art of Collaborative Decision Making”に由来する。しかし、”Getting To Yes”(邦題『ハーバード流交渉術』)を著したロジャー・フィッシャーやウィリアム・ユーリと比べると、我が国におけるライファの知名度は必ずしも高いとは言えない。

NPO法人 日本交渉協会常務理事 望月明彦

交渉研修の現場から 第6回「交渉分析力診断テスト」

交渉研修の現場から 第6回「交渉分析力診断テスト」

この診断テストは、交渉事例にそって約30の問があり、各問について4択の中から自分が最適と思うものを選んでいただく形式です。この診断では、交渉力を「分配型交渉」「統合型交渉」「認知バイアス」「意思決定」「信頼性」という5つの観点から評価し、100点満点で得点化します。

第5回「交渉と説得の違い」| 望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉研修の現場から 第5回「交渉と説得の違い」

交渉ぶりを見ていて気になることがあります。それは「交渉」ではなく「説得」をしてしまう方が多くいらっしゃるということです。交渉と説得の違いは何でしょうか。

第4回「交渉の満足度」| 望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉研修の現場から 第4回「交渉の満足度」

交渉研修では、参加者が二人一組のペアになりロールプレイングを行いますが、そのロールプレイングが終わったとき、その交渉の満足度を1点から5点で表現していただきます。そして、自分の満足度を交渉相手の満足度と比べていただくのです。

第3回「チーム交渉」|望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉研修の現場から 第3回「チーム交渉」

交渉研修では、参加者にいくつかのチームに分かれていただき、チームごとに交渉相手への提案を検討・発表していただくことがあります。いわばチーム交渉です。

望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉研修の現場から 第2回「交渉における“ジェスチャー”」

日本交渉協会が実施している交渉研修(交渉アナリスト実技研修、通学ゼミ土日集中講座、ビジネス交渉アナリスト講座など)で気付いたことをお伝えしていくコーナーです。

望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉研修の現場から 第1回「交渉ロールプレイングのすすめ」

交渉アナリストの研修では、交渉学の理論を説明した後、参加者の皆さんにロールプレイングを行っていただき、交渉知識を試していただきます。二人一組のペアで、片方が売り手、もう片方が買い手となり、それぞれ1~3枚程度の簡単なケースを読み、交渉を行います。短いケースであれば10分程度、長いケースの場合は40分を超える場合もあります。

望月明彦氏による交渉学Web講座

まとめ

交渉には自分だけがハッピーになろうとする「分配型交渉」(「ウィン・ルーズ型交渉」)と、自分も相手もハッピーになろうとする「統合型交渉」(「ウィン・ウィン型交渉」)がありました(第1回)。

望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉倫理~嘘は許されるのか?

今回は交渉における倫理について考えてみましょう。ここでの目標は、「交渉のなかで嘘は許されるのか?」という問いに対する自分なりの回答を考えていただくことです。そこでまずはある女性のフリーマーケットでの交渉における行動と心の動きをお読みください。

望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉合意~交渉前に合意をイメージせよ!

交渉では交渉時間全体の90%が経過しても妥結済みなのはわずか10%に過ぎず、残り時間10%で交渉の90%が妥結するとも言われます。それほど合意するのは難しいことです。今回は交渉における合意をテーマに考えてみましょう。特に合意が難しいビジネス交渉における組織間の交渉を取り上げます。

望月明彦氏による交渉学Web講座

弱者の交渉術~“逃げる”も戦術

交渉者同士は常に対等な関係にあるとは限りません。むしろ交渉者の一方が弱い立場にいることの方が普通です。商品売買の交渉では、余程の希少商品でない限り、買い手の方が交渉力が強くなります。日常生活でも女性の方が立場は強いかもしれません。

望月明彦氏による交渉学Web講座

認知バイアス~交渉における心理戦

人間は合理的なようで実は日常の行動はあまり合理的ではないようです。人はスーパーマーケットで、「残り10個。本日まで」と書かれた特売品をつい買ってしまいますが、もしかしたらただの売れ残りかもしれません。このように合理的な判断ができない、いわば罠に陥っている状態を認知バイアスと言います。認知バイアスには様々なものがありますが、交渉においてよく見られる認知バイアスには以下のものがあります。

望月明彦氏による交渉学Web講座

社内交渉~社内会議という名の社内交渉

ビジネス交渉というと、営業マンが取引先と条件交渉をしている姿を思い浮かべるかもしれません。確かに会社にとって大変重要な交渉です。しかし実はビジネスマンが最も多く行っている交渉は恐らく「社内交渉」です。

望月明彦氏による交渉学Web講座

錦の御旗~私的な欲求はカモフラージュせよ!

今回は交渉で相手を説得するための武器になる「錦の御旗」について説明しましょう。錦の御旗とは、いわば大義名分であり、交渉ごとで自分の私的な欲求をカモフラージュするために使われるものです。

望月明彦氏による交渉学Web講座

分配型交渉から統合型交渉へ~ウィン・ウィンには2つの形がある!

今回は分配型交渉(ウィン・ルーズ型交渉)の典型である「価格交渉」について、その構造を科学してみましょう。「科学する」といっても大層なことではありません。価格交渉には「見えている価格交渉」と「見えていない価格交渉」の二重構造があるというだけです。

望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉戦術~交渉戦術の基本の型

今回は分配型交渉における交渉戦術について、その基本形を解説します。交渉戦術は様々にありますが、ここでは特に基本的な型だけを紹介します。立場固定戦術 =自分の立場を絶対に変えずに相手に譲歩させる、譲歩戦術=上手に譲歩することにより有利な条件で合意する、善玉悪玉戦術=こちらが良い人と悪い人に分かれて演じ、合意をさそう
ショッピングリスト戦術=複数の交渉項目のうち本当に重要なものを隠して交渉する、おまけ戦術=合意の際に、ちょっとだけこちらに有利な条件を求める

望月明彦氏による交渉学Web講座

BATNA~交渉テーブルを蹴る!

今回は交渉において最も重要な武器であるBATNAについて考えていきましょう。通常、命がけの交渉でもない限り、その交渉が決裂しても世の中何とかなるものです。つまり合意できなくても何か代わりの案があるのが普通です。その代替案のなかで最も満足度が高いものを交渉学ではBATNAと呼びます。

望月明彦氏による交渉学Web講座

価格交渉の基礎構造 ~“ZOPA”という名のパイを切り分ける!

今回は分配型交渉(ウィン・ルーズ型交渉)の典型である「価格交渉」について、その構造を科学してみましょう。「科学する」といっても大層なことではありません。価格交渉には「見えている価格交渉」と「見えていない価格交渉」の二重構造があるというだけです。

望月明彦氏による交渉学Web講座

分配型交渉と統合型交渉 ~ウィン・ウィンの3つの誤解

交渉は、自分だけがハッピーになろうとする「奪い合い型」と、自分も相手もハッピーになろうとする「問題解決型」に分かれます。前者は「分配型交渉」または「ウィン・ルーズ型交渉」、後者は「統合型交渉」または「ウィン・ウィン型交渉」とよばれます。

NPO法人 日本交渉協会名誉理事長 藤田忠

藤田忠理事長の交渉行動講座

黒船の交渉学 ~ペリーのポートフォリオ戦略~ 後編

ペリーは、不測の事態に備え、測量隊に応接所の前の小湾の測量を命じた。早速、実測され、そこから射程以内まで艦隊を進めることができることが報告された。奉行は、ペリーが本船の停泊している所からボードで来ることを想定していた。これに対し、それは提督としての威厳にふさわしくないから、応接所の近くまで艦隊を移動させたいと申し入れた。アメリカ側は、臨戦体制下にある艦内の任務を遂行するために必要な人数だけ残し、それ以外の約300名が提督と行動を共にしたのである。士官は正装し、水兵と陸戦隊は青と白の制服を着た。提督が上陸すると、先に上陸していた兵と士官達は二列に整列し、提督がその間を通り過ぎると、彼らは提督の後について応接所に向かって行進を開始した。威風堂々、脅しの演出力である。かくして、応接所で大統領の親書が手交される。

藤田忠理事長の交渉行動講座

黒船の交渉学 ~ハリスの見た「ボトム・アップ社会」後編~

アメリカ式の決断方式は、トップ・ダウン方式である。上の決断が徐々に下に下りていくやり方である。それに対して日本の方式は、ボトム・アップ方式、いわゆる根まわしである。根まわしの場合、いったん話がつけば、そのあと実行段階に入ってからは比較的スムーズにいく。が、それまでが大変である。

藤田忠理事長の交渉行動講座

黒船の交渉学 ~ハリスの見た「ボトム・アップ社会」前編~

米国のペリー提督と日本全権委員との間に締結された和親条約(神奈川条約)の第11条に次のように言う。「この条約の調印の日から18ヵ月の後に、合衆国政府は下田に居住する領事または代理官を任命することができる」ハリスが安政3年(1856年)7月、軍艦サン・ジャシント号に乗って下田にやってきたのは、和親条約のこの11条によってである。日本側は、これを聞いてすっかり仰天してしまった。というのは、確かに第11条は日本への米国官吏の駐在規定に触れているのだが、その条件文として「両国政府においてよんどころない事があった場合模様により」とあるからである。

藤田忠理事長の交渉行動講座

黒船の交渉学 ~ペリーのポートフォリオ戦略~ 前編

アメリカが日本の開国を求めたのは一再ではなかった。が、ペリー以前ではその目的を達成することができなかった。ペリーが日本を鎖国から解き放ったのは、もちろん交渉者としてのペリーという人物の力量にもよるが、同時にアメリカ本国の歴史的な要請でもあった。

藤田忠理事長の交渉行動講座

「調整」とは何か

人はだれも一人では生きていけない存在である。いや、生きていけるにしても、その能力を十分に発揮できるとは限らない。たとえば無人島でただ一人で暮らすとなれば、そこがどれほど豊かな土地であったとしても、おおよそ文化的な生活は望むべくもない。つまり、人間の文化、あるいは文明というものは、人間が集団として暮らすことによって社会を形成し、分業と協業を行なうことによって初めて成立するわけである。

藤田忠理事長の交渉行動講座

交渉の基本構造

対立から連帯への求めには、いろいろな方法がある。戦争も連帯を求めている、というちょっと語弊があるかもしれないが、スイスのトゥルニエという人格医学の創立者が日本にきた時、彼の講義を聞き、非常に感銘を受けた。彼は「戦争も、相手から愛を勝ち取る活動である」という。

藤田忠理事長の交渉行動講座

人の連帯における意味

図の漢字「人」をじっと見てください。どんなことに気がつきますか。これは長い棒と短い棒がたがいに支えあっている姿を示している。漢字の成り立ちをこのように説明する学問を説文学という。長い棒と短い棒がたがいにつっぱって直立してたのでは人になりません。たがいにゆずりあい、支えあって人になるのである。これは新渡戸稲造博士の説明である。それにしても、漢字はなかなかうまく出来ている。人間はたがいに協力しなければ何もできないことを暗示しているのです。

藤田忠理事長の交渉行動講座

渡辺崋山の『八勿の訓』に学ぶ

日本の諺や格言で交渉に関するものは、寡聞にして、崋山以外のものを聞いたことがない。ここに示す崋山の『八勿の訓』は交渉に関する教訓としては貴重なものである。天保八(一八三七)年、崋山四十五歳の時である。田原領内に飢饉が発生した。天保の飢饉である。そこで、用人真木重郎兵衛定前が藩御用金用達の目的で大坂表におもむき、滞在していた。彼は大坂商人との交渉を行うのである。これに対し、崋山は手紙を送って、真木に交渉の心構えをさとしたのである。

NPO法人 日本交渉協会副理事長 土居弘元

土居弘元先生による交渉学Web講座

北東に進路をとれ

「北北西に進路をとれ」(North by Northwest) はヒッチコック監督作品の映画で。とうもろこし畑の中を、防虫剤散布用の軽飛行機による追跡を逃れて逃げ回るシーンや、ラシュモアにある4人の大統領の顔が刻まれた岩壁を滑り落ちそうになるシーンが思い出される。

土居弘元先生による交渉学Web講座

FOTEについて

理論を構築しようとするとき、直面している現実にだけ目を向けて対象とするものを描写するのは適切ではない。特に社会現象に関する場合は、「どのような前提に立って論理を組み立てるのか」を明確にしておかなければならない。そうでないと、その論理の展開と現実の違いが認識できず、論理を否定することの危うさが生じる。

土居弘元先生による交渉学Web講座

「交渉学原論」について思う

社会科学といわれる諸科学では、その科学の基礎となる論理を示す原論と言われる科目が講じられている。経済学原論とか経営学原理、会計学原理、マーケティング原理、等々といった科目がそれで、これらは経済学部、商学部、経営学部では必修科目であり、学生時代に受講した経験をお持ちの方も多いことだと思う。

土居弘元先生による交渉学Web講座

リーダー、時間、信頼

2月末日、私が住むマンションの建て替え組合の解散総会が行われた。2014年6月に、10年ぶりに元住戸に引っ越しをすることができたため、住民が作っていた建て替え組合を解散することになったのである。建て替えに至った経緯、時間の流れ、多数住民のいるマンション、それは長期の交渉となり、面白い事例である。しかし、詳細に語ることは禁じられているため難しい。ただ、そこに至る人の考え、10年にわたる時間の流れという要因、代表となる人の熱意、住民間に築き上げられた信頼関係とその維持、等々、これらは交渉を考える時に重要な要因であるとしみじみ思うので語ってみたい。

土居弘元先生による交渉学Web講座

交渉学に思う

交渉を専門の授業科目として作り、担当したのは1998年だったと記憶している。経営学の領域で上級の科目にして、タイトルは「交渉行動と意思決定」とした。その頃まで研究の中心は決定分析であったのでいくらか違和感を覚えたが、ライファ先生の著書“Art & Science of Negotiation”を読みながら決定分析が交渉に適合できることを確認し教材を考えた。

土居弘元先生による交渉学Web講座

win-winという考え

「交渉とは相手方からできるだけ多くの物を得ることである」と考える人が多いのではないかと思う。
「交渉行動と意思決定」という授業を担当していた頃、第1回目に行うロールプレイングは「マウンテンバイク」であった。これは、引っ越ししなければならなくなった高校生が、愛車である中古のマウンテンバイクを売るという話である。大学2、3年生にとってはそれほど違和感を覚えるケースではない。そこで行われるやり取りと結果を見ていると、売り手は「できるだけ高く売りたい」という気持ち、買い手は「できるだけ安く買いたい」という気持ちに基づいて行動する学生が多かった。

土居弘元先生による交渉学Web講座

鳥瞰図を描く

民謡だと思うが次のような一節がある。
「高い山から谷底見れば、瓜や茄子の花盛り」

字義どおりに解釈すれば、「季節は夏、高い所に立って、そこから下の畑を見下ろしたなら、そこには瓜や茄子の花が咲いているのがよく見える」ということであろう。「鳥瞰する」ということの意味がよく理解できる一節だと思う。

土居弘元先生による交渉学Web講座

BATNA (Best No Deal Option)

交渉をして問題解決を図ろうとする人の目的は相手方と合意をすることにある。合意を目指しての人間行動を対象として展開するのが交渉理論である。しかし、合意に至ることができない交渉もまたいろいろとある。また、この条件では合意したくないという思いに至ることもある。そのような事態になると合意を避けて交渉のテーブルから去る、という手段がとられる。このテーブルから去るという行為を現実に行うのではなく、「こういう事態では合意することはできませんね」という態度を暗黙に示すことも交渉の技術である。その、ほかにも案を持っていますよという案を代替案(alternatives)といい、そのうちで合意案と満足度が近い最善のものをBATNAという。

土居弘元先生による交渉学Web講座

「主観である」ことが

人は客観的であるということを是とし、主観的であるということについては「個人的な意見に過ぎない」と思いがちである。客観的に示すことができる「長さ・重さ」のようなものは、対象を比較しどちらが大きいかというような検討をすることが可能である。しかし、客観的に示すことができない対象に対しても「これは好ましい」とか「これはどうもダメだな」という評価をするのが私たちの日常ではないかな、と私は思う。満足水準という考え方で判断するなら至極当然なことなのだから。ゆえに、主観を客観化することは大切なことなのである。

土居弘元先生による交渉学Web講座

「関心」について

人は「関心(interests)」を持つ物に対して目を向ける。何も関心がない物に対しては知らぬ顔をして通り過ぎる。関心が強くなると「欲しい」「手に入れたい」「自分の物にしたい」という気持ちが高じてくる。お金を出せば手に入れることができる物なら何とかして手に入れたい、という気持ちになってくる。高級品店が繁盛するのはこのような人が多いことの証である。

土居弘元先生による交渉学Web講座

行動科学

経済学の領域で「行動経済学」が広く認識され始めている。きっかけとなったのは2002年にノーベル経済学賞をカーネマン教授が受賞したことによる。2000年頃はカーネマンの名前を知っている日本の経済学者は少数派ではなかっただろうか。その研究は、認知心理学の応用として合理的な選択を人はするものだろうか、について考えるものであった。いわゆる実験によって実証するという心理学の方法を適用するものである。同じ認知心理学の研究者であるトヴェルスキーと共同研究をし、論文も共著として相当数発表しておられた。

土居弘元先生による交渉学Web講座

天動説と地動説

天動説とは「地球は宇宙の中心にあって静止している。そして太陽、月、星が地球の周りを回っている」という考え方であり、17世紀頃までは支配的な宇宙観であった。それに対して「地球や他の惑星が太陽の周りを回っている」という考え方が18世紀以降になって有力になってくる。これが地動説である。ガリレオは地動説の考えを放棄するよう迫られそれを認めたが、「それでも地球は動いている」とその後でつぶやいた、といわれている。

土居弘元先生による交渉学Web講座

交渉学のアナトミー

「アナトミー」、日本語で解剖学と言う。医学部の学生が最初に学ぶ必修科目であることは前回述べた。解剖学では人間の骨格、筋肉、神経系統、内臓、等がどのように構成されており、どのように関連して動くのかが示される。人の体格が大きいとか年齢が若いとか高齢であるとかには関係がない。また国籍にも人種にも関係なく「人間」を形作っている姿を示すものである。また、それを基にして眼科、循環器科、脳神経外科といった特定の領域の研究がされるのではないし、環境の変化と人間構造の関連が考えられることもない。解剖学を学ぶことで人間が持っている構造を捉えることができ、医学が対象とする枠組みを考えることができる。そのために学ぶのである。その観点から見て、医学に関連する人々が取り扱う対象領域はどのようなものかを限定して示すものであり、医学関連の人達にとって必須の科目になると言えるのであろう。

土居弘元先生による交渉学Web講座

アナトミー

アナトミー(anatomy)。日本語で「解剖、または解剖学」のことである。普通は医学や生物系に関連している用語である。解剖学は医学部の学生にとって最初に習得しなければならない必修の基礎科目である。だから医学部では誰もが一生懸命に学び、この科目を十分に習得する。そしてそれを基に専門とする科目へ進んでいく。そういう風に考えて不思議はないが、それには「?」がつく。実際にはそうでもないようであるが実体は「?」である。杉田玄白や前野良沢がオランダ語の著書「ターヘル・アナトミア」を「解体新書」と訳して著した頃の医師は解剖学に目を見張り、蘭方医となることに夢を膨らませた人が相当にいたことであろう。その頃なら人間の骨格構造や人体図は珍しいものであり、解剖学への期待を抱かせるものが大きかったことと思うからである。

土居弘元先生による交渉学Web講座

問題と解答

「問題と解答」という語からどのようなイメージを描くだろうか。私はなぜか高校時代までの数学を思い浮かべてしまう。問題に対し正解は必ず一つある。それは中学校までの数学である。しかし高校時代の数学では「解なし」という場合も、「不定」という答えもありということを習った。そのあたりで問題に対して正解は一つという思いが変わってきた。また、受験に失敗して予備校に通った時のことである。数学のユニークで素晴らしい授業に魅かれた。「解法の探求」というその授業は、1時間で一つの問題をジックリといろいろな側面から考えるものだった。そして解に到達する方法を考えてその長短を示す。解に至る道は一つではなくいくつかあることを示し、そのうちから最も好ましい解法を見出すというスタイルだった。高校教育までは、問題は与えられるもの、解答はそれに対して作るもの、という方法のトレーニングが行われていた。それはそれで必要だな、と懐かしく思う。

土居弘元先生による交渉学Web講座

視座と融合

物を見て判断する立ち位置、それを視座という。同じ物を見たとしても視座が異なると異なる物に見える。富士山を描く画家は昔から多かったことと思う。富士山はどの位置から見ても同じように見える独立峰であるが、やはり視座によって描かれる山容は異なる。物を見る時、そして考える時、見たり考えたりしている視座が異なれば、同じ物も同じにはならないのである。

土居弘元先生による交渉学Web講座

交渉という語のイメージ

何事にも「上手」と「下手」はある。「上手」が高じると名人と称されるようになる。中には自称名人も出て来る。次のような経験をした。

NPO法人 日本交渉協会特別顧問 平沢健一

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

アジアの時代に活躍できる日本人とは

ASEANはインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアの東南アジア10ヵ国が加盟し、本部はインドネシアのジャカルタだ。域内人口は約6億9千万人で、28ヵ国約5億人のEU(欧州連合)や、アメリカ・カナダ・メキシコの3ヵ国5億人弱のNAFTA(北米自由貿易協定)より多い。国連は、2030年には7億人を超え、2050年には7億7千万人になると予測している。経済成長も著しく過去10年間で域内総生産は約3倍に増加した。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

中国人との交渉に勝つための対処法(Ⅲ)

行きあたりばったりではなく、落とし所を予め決めておく。「200言って100を取りたい」と言う中国側の計算だと思って、始めの要求を徹底して下げさせる。脇を固めて、最後のとどめの一手(人や物など)を用意する。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

中国人との交渉に勝つための対処法(Ⅱ)

ほぼ中国の全省を廻っていろいろな地方の中国人と交渉してみて思うことは、彼らの交渉スタイルに惑わされてはいけないということだ。日本人、欧米人と比べて彼らの一方的な質問と要求の嵐に辟易した事が多かった。特にビジネス交渉ではなおさらだ。彼らの言っていることを辛抱して傾聴し、まずその中で誰が決定権者かを確り探ることが大切だ。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

中国人との交渉に勝つための対処法(Ⅰ)

中国人との交渉は極めて困難だといわれるのはなぜだろうか。米国、欧州人と長くビジネス上の交渉を繰り返した後中国に赴任し、このことを考え続けた。中国には中国語で書かれた外国人との交渉術指南書がたくさん存在する。また米国のディベートにそっくりな「討価環価」という駆け引きで交渉に勝つための訓練が彼方此方でなされている。広い中国をめぐって様々な場面で中国人と交渉を繰り返したが、彼らが実によく工夫していることに感心すると同時に、共通した特色があることに気付いた。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

EUの多様な国民性とネゴシエーション

アメリカに5年勤務した後、欧州で10.5年駐在し現地法人の経営にあたった。EUの統合が実現し、共通通貨のEUROが導入される前夜までそのヨーロッパに駐在した。この間、1989年のベルリンの壁崩壊では直ちに現場を訪問し、テレビ局のやぐらの上から壁を見渡すことができ、歴史の大転換を感じた。また東欧各国が自立していく様を目の当たりにし、ソ連崩壊と12のロシア共和国が生まれた中で多くのスラブの国々を訪問し、モスクワ事務所を立ち上げ、ポーランド、ハンガリ-、チェコ等の販売会社を設立していった。結局モザイクのように美しい欧州でラテン、ゲルマン(アングロサクソン)、スラブ民族という異文化の人たちとビジネス交渉を重ねることができた。これはかけがえのない経験であり、アイスランドとユーゴスラビア以外の欧州の国を訪問した。そのEUが今設立以来の危機に瀕している。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

自らの殻を破って国内から海外に挑戦した異文化経験での交渉力 (米国編)

アメリカには黒人、中南米人、アジア人やアフリカ人など多彩な人種が世界から来て共存している。アメリカ人のフロンティア・スピリットは、こうした多様な人達との交流を通して、1ヶ所に定住することなく新しい土地へ移っていく考えから生じたもののようだ。このいとも簡単に地理的に移るという考えが、職業的にも簡単にジョブホッピングする考えに共通する。アメリカの履歴書はよく複雑な方が良いといわれる。能力があるから他の会社から引っ張られたという事が勲章になる。一旦、他の会社から引っ張られて辞めたマネージャーが再度就職を希望してきたのには驚いた。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

自らの殻を破って国内から海外に挑戦した異文化経験での交渉力

日本国内15年間の営業活動で殆どの県を訪問した後、突然米国勤務を命じられた。1982年の事で、折しも米国のドイツユダヤ系社会学者でハーバード大学教授エズラ・ヴォーゲルの「Japan as No.1」がベストセラーとなっていた。ヴォーゲルは日本語と中国語を話し、中国名で傳高儀という名前も持っている東アジア研究の大家で異文化理解と交渉力に秀でた人であり今も健在だ。貪るようにこの本を読んで米国ビジネスに飛び込んで行った。彼は日本の教育水準の高さや犯罪の少なさや長生きや健康状態など総合的に見て日本の組織力を絶賛している。

グローバル時代に求められる交渉術 平沢健一氏

「性善説」の良さを残して「性悪説」も確り学ぼう 東の「韓非子」・西の「マキャベリ」

2008年のリーマンショックに続く世界同時不況から、中国をはじめとした新興国が台頭してきた中、20年来低下してきた日本の存在感が一段と落ち始めてきている。

NPO法人 日本交渉協会代表理事 安藤雅旺

交涉講座(歴史と日常に学ぶ脅しの対応法)

歴史と日常に学ぶ脅しの対応法(第3回)

脅しへの対応としてよく紹介されるのがリンガーのアイスボール理論である。これは簡単に紹介すると何百億年後には太陽もやがては燃え尽き、地球も一個の氷の玉、すなわちアイスボールになってしまうのだという理論である。そのため今目先で起こっていることは所詮は非常に小さな事にすぎないという考え方である。これは脅されて動揺しているみずからの心を落ち着かせる一定の効果のある発想といえる。こだわりを捨て達観するというのも時には必要な事である。

交涉講座(歴史と日常に学ぶ脅しの対応法)

歴史と日常に学ぶ脅しの対応法(第2回)

次に大切な事は相手のタイプ、脅しの性格を理解することである。孫子が述べた一節に「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」という言葉があるが、まず彼を知ることが大切である。相手の性格は大きく次の4つに分類できる。

交涉講座(歴史と日常に学ぶ脅しの対応法)

歴史と日常に学ぶ脅しの対応法(第1回)

戦国時代の覇者と言えば徳川家康であろう。家康ともなれば脅しに屈することもなかったのではと思われる人が多いかもしれない。しかし現実は、家康も生き残るために脅しに対して最大の譲歩を経験している一人である。織田信長に謀反の容疑をかけられた際に、彼は正室築山殿を殺し、嫡男信康を自害させている。状況が厳しい中では相手からの脅しに対して、最悪の譲歩を強いられることも現実には起こってくるのである。