望月明彦氏による交渉学Web講座

交渉合意~交渉前に合意をイメージせよ!

NPO法人日本交渉協会常務理事 望月明彦

交渉では交渉時間全体の90%が経過しても妥結済みなのはわずか10%に過ぎず、残り時間10%で交渉の90%が妥結するとも言われます。それほど合意するのは難しいことです。今回は交渉における合意をテーマに考えてみましょう。特に合意が難しいビジネス交渉における組織間の交渉を取り上げます。

どの交渉項目から交渉するか
複数の交渉項目がある場面を考えてみましょう。ビジネス交渉は通常、複数の交渉項目があるはずです。取引対象の商品の価格、数量、納期、保証条件、などです。その時どの交渉項目から交渉していくのがよいのでしょうか。人によっては簡単に合意できる項目から交渉することを好む人もいれば、逆に合意が難しい項目から交渉していくのを好む人もいるでしょう。

簡単に合意できる項目から交渉することで、交渉相手と合意体験ができてきますから、その後の難しい交渉項目でも合意しやすいというメリットはあり得ます。逆に、難しい項目を先に合意してしまえば、あとは簡単な項目だけで済むのでよいという考えもあるかもしれません。

一方、ウィン・ウィン型交渉をするためという観点からは、複数の交渉項目を一つずつ交渉していくというやり方ではなく、それら複数の交渉項目をパッケージにして同時に合意する方がお互いの満足度が高まると考えられます。

交渉項目を一つずつ合意していくということは、一つ一つの交渉項目がウィン・ルーズ型になってしまいます。なぜなら交渉項目が一つのため、価値交換ができないからです。つまり、交渉項目を一つずつ合意することはウィン・ルーズ型交渉を複数回行っているのと同じことなのです。交渉の後半になるとお互い何勝何敗かを計算し始め、最後の合意は感情的に難しくなりがちです。

一方、複数の交渉項目についてパッケージにして交渉する方法があります。この場合、売り手が「単価は100万円、数量は100個、納期2か月」もしくは「単価105万円、数量80個、納期3か月」が可能ですがどちらが望ましいですか? と提案します。これに対して買い手が「単価は多少高くても構わないから納期はもう少し早くできませんか?」すると売り手は「では、単価110万円、数量80個でしたら、納期1か月で対応できますがどうでしょう?」といった具合に、お互いの重要な交渉項目と譲れる交渉項目が分かるので価値交換をしながらお互いの満足度を高めることができるのです。

合意しやすくする
合意が難航しそうな交渉では、交渉全体のプロセスを合意しやすい形で設定していくことも必要です。例えば、業界初の大きな取引をしようということであれば、交渉の最初の段階で、合意時に発表する外部向けの発表資料の文案を一緒に作成してみるのも手です。これで“ゴールのイメージ”を共有できるため、その後の交渉で合意しやすくなります。

また、交渉合意の最終段階では相手に“小さな花”を持たせることも合意しやすくする一つの方法です。最後の条件ではこちらが譲ってあげる、または小さなおまけを与えて顔を立ててあげるなどです。人は多少でも有利になった時に決断しやすくなります。またこのような花を持たせることで、先方担当者も組織の意思決定者の了解を得やすくなるかもしれません。

最後に、最終的な意思決定者(例えば上司など)を早い段階から交渉プロセスに参加させるべきです。人は誰でも交渉ごとに“ひとこと”意見を言いたくなるものです。最後の合意段階でそれまでの先方との議論をひっくり返されたくなければ、早いうちに“ひとこと”言ってもらうのが無難です。

PNN(ポスト・ネゴシエーション・ネゴシエーション)
やっと交渉が合意に至った時、その交渉が厳しいものであったり、長時間を要したものであったりした場合ほど、交渉者はお互いの努力と忍耐を称え合い、最高の盛り上がりのなか交渉テーブルを離れてしまいます。

しかしまだ交渉者が刈り取れる小さな満足度が残っているかもしれません。本当にお互いにとっての満足度を最高まで高めたいのであれば合意に至ったところでもうひと踏ん張り交渉を続けてみましょう。「ここの条件ですが、私はこうしてもらえるともっと助かるのですがどうでしょう。」「なるほど。私はこちらの条件をこうしていただけるのであればお受けできますよ。」といった具合です。既に合意した条件がありますから、そこから先は合意できなくてもダメ元です。ちょっとした微調整の可能性を探るわけです。

実践で使える! 交渉学の知識 ~「その交換条件は対等か?」
人はとても対等とは言えない交換条件を何となく受けてしまうことがあります。自分の部屋を作ってくれたらちゃんと勉強するよ、ちゃんと自分で世話をするから子犬を飼っていいでしょ、といったものです。しかし新しい部屋で息子が漫画ばかり読んでいるからといって部屋を元に戻す努力などする気はおきませんし、娘が子犬の世話をしなければあなたがするしかないわけです。部屋で勉強しなかったら漫画を古本屋に売るよ、世話しなかったら子犬はペット屋さんに引き取ってもらうよ、など対等な交換条件を心がけましょう。

覚えておきたい! 交渉の心得 ~「相手に努力をさせよ!」
人は努力して手に入れたものは価値あるものと考えます。自分が努力して得た学歴や会社のポジションは価値あるように見えるはずです。交渉も同じで、交渉相手にちょっとした苦労を与えることで、その交渉や合意内容を価値あるものとして大事にしてくるはずです。

望月 明彦氏

望月公認会計士事務所代表
特定非営利活動法人 日本交渉協会常務理事
ディップ株式会社監査役 (東証1部上場)(現任)
アイビーシー株式会社監査役(東証1部上場)(現任)
日本公認会計士協会東京会 研修委員会 副委員長(2010~2014)
経済産業省コンテンツファイナンス研究会 委員(2002~2003)

早稲田大学政治経済学部卒。
監査法人トーマツを経て、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。
その後、上場企業の経営企画部長として資本政策の立案・実施、合弁会社の設立、各種M&Aなどを手掛ける。
さらに、アーンストアンドヤングの日本法人にて上場企業同士の経営統合のアドバイザー等を務める。
2010年より望月公認会計士事務所代表。日本交渉協会常務理事。

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まとめ

交渉には自分だけがハッピーになろうとする「分配型交渉」(「ウィン・ルーズ型交渉」)と、自分も相手もハッピーになろうとする「統合型交渉」(「ウィン・ウィン型交渉」)がありました(第1回)。

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