望月明彦氏による交渉学Web講座

分配型交渉から統合型交渉へ~ウィン・ウィンには2つの形がある!

NPO法人日本交渉協会常務理事 望月明彦

これまでZOPA、BATNA、交渉戦術といった分配型交渉の基礎知識について解説してきました。今回は、統合型交渉とはどのようなものか、また分配型交渉をどうしたら統合型交渉に変えていけるのか、について考えていきます。まずは統合型交渉の2つのパターンを理解しましょう。1つが価値交換、もう1つが創造的問題解決です。

統合型交渉(ウィン・ウィン型交渉)の2つのパターン
①価値交換=自分にとって価値の低い条件を相手に譲り、価値の高い条件を得る
②創造的問題解決=全く新しい解決策を考えて、交渉を不要にしてしまう

価値交換(トレード・オフ)
ある仲の悪い兄弟が100坪の辺ぴな土地を相続し、ここに引っ越してくることになりました。二人はどのようにこの土地を分けるか相談を始めましたが、なかなか折り合いがつきません。実はこの土地は五角形のため、平等に分けるのが大変なのです。境界線がどちらかに偏ればその分だけ片方が喜び、片方が文句を言う、まさにウィン・ルーズな状態です。

ここで兄が言いました。「僕は車を持っているので、多少面積が狭くてもよいから道路に面している部分が大きい方が嬉しい」一方の弟は「僕は子どもが多いから面積が大きい方が嬉しい」そこで二人は、道路に面する部分が大きい方の土地の面積を小さくし、道路に面する部分が小さい方の土地を大きくすることで納得することができました。

このとき、兄は「面積」という条件を弟に譲り、代わりに「道路」という条件を手に入れました。一方の弟は「道路」という条件を兄に譲り、代わりに「面積」という条件を手に入れました。これで二人は単純に土地を50坪ずつ半分にするより満足度が高まったわけです。


創造的問題解決
この兄弟は無事にお互いが満足できる境界線が引けたことで満足し、久しぶりに兄弟で酒でも飲もうということになりました。そして二人が腹を割って話し合っていると、実は二人の家族ともども、こんな辺ぴな場所に引っ越してくることをあまり快く思っていないことが分かりました。そこで二人は、この土地を共有にして大きなマンションを作り、その賃料を二人で半分ずつ分けたらどうだろうか、という考えに至りました。二人はこの解決策に大満足し朝まで飲み明かし、また昔の仲が良かったころの二人に戻りました。

このとき二人は土地を分けるという問題を、マンションを建てて賃料を分け合うという全く新しい解決策で解消してしまいました。これが創造的問題解決です。

ウィン・ウィンのために
このように見てくるとウィン・ウィン型交渉も簡単に見えますが、実際の交渉はウィン・ルーズ型になってしまいがちです。そこでウィン・ルーズな交渉をウィン・ウィンにするにはどうしたらよいか、その方法を2つ考えてみましょう。

その1:「迷信:パイの大きさは決まっている」に気づく
人は交渉テーブルに着くと、その交渉を分配型交渉、つまりウィン・ルーズなものだと思い込んでしまう傾向にあります。奪われまい、奪ってやる、という具合です。特に今回の兄弟のように仲が悪ければなおさらでしょう。ウィン・ウィンな交渉をするためには、まずは「相手から奪い取るぞ」という発想を捨てて、一緒に互いの満足度を高めるために交渉する雰囲気作りが大切です。例えば、最初に「今日はお互いが満足できるアイデアを出し合うようにしましょう」といった発言をするのも手です。

その2:交渉相手と「ブレインストーミング」を行う
創造的問題解決をするためには、交渉者同士がお互いに何を望んでいるのか、何ができるのか、そういった情報を積極的に開示し合わなければなりません。そのためには交渉相手とブレインストーミングを行うことが有効です。ブレインストーミングは皆でアイデアを思いつくままに出し合うものであり、たった1つのルールは出てきたアイデアを否定してはいけないということです。交渉の場で思い切って相手に「一緒にブレインストーミングをして、お互いにメリットがあるアイデアを出し合ってみましょう」と言ってみるのも手です。

実践で使える! 交渉学の知識 ~「交渉の満足度を高めよ!」
交渉の満足度は「交渉結果の満足度」と「交渉プロセスの満足度」によって決まります。よい交渉だったと思えるためには、ある程度お互いに苦労し、その苦労を乗り越えることも必要かもしれません。

覚えておきたい! 交渉の心得 ~「相手が同意しないときは理由を聞け!」
交渉相手がある立場を変えないとき、またはこちらの提案に同意しないとき、人は感情的に「それならこちらも……」と強硬な姿勢をとりがちです。しかしウィン・ウィンな交渉をするためには、ここでぐっとこらえて、なぜ同意しないのかその理由を聞かなければいけません。理由を聞き相手の真の関心事を探ることで、解決の糸口が見つかることがあります。

望月 明彦氏

望月公認会計士事務所代表
特定非営利活動法人 日本交渉協会常務理事
ディップ株式会社監査役 (東証1部上場)(現任)
アイビーシー株式会社監査役(東証1部上場)(現任)
日本公認会計士協会東京会 研修委員会 副委員長(2010~2014)
経済産業省コンテンツファイナンス研究会 委員(2002~2003)

早稲田大学政治経済学部卒。
監査法人トーマツを経て、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。
その後、上場企業の経営企画部長として資本政策の立案・実施、合弁会社の設立、各種M&Aなどを手掛ける。
さらに、アーンストアンドヤングの日本法人にて上場企業同士の経営統合のアドバイザー等を務める。
2010年より望月公認会計士事務所代表。日本交渉協会常務理事。

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まとめ

交渉には自分だけがハッピーになろうとする「分配型交渉」(「ウィン・ルーズ型交渉」)と、自分も相手もハッピーになろうとする「統合型交渉」(「ウィン・ウィン型交渉」)がありました(第1回)。

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