交渉研修の現場から 第4回「交渉の満足度」
NPO法人日本交渉協会常務理事 望月明彦
日本交渉協会が実施している交渉研修(交渉アナリスト実技研修、通学ゼミ土日集中講座、ビジネス交渉アナリスト講座など)で気付いたことをお伝えしていくコーナーです。
交渉研修では、参加者が二人一組のペアになりロールプレイングを行いますが、そのロールプレイングが終わったとき、その交渉の満足度を1点から5点で表現していただきます。そして、自分の満足度を交渉相手の満足度と比べていただくのです。
すると、当然ではありますが、ほとんどの方は交渉相手とほぼ同じ満足度になります。合意にいたったチームはお互いに納得していますから、お互いの満足度が高いのも分かります。また、交渉が合意に至らず、決裂したチームの場合、満足度が低くなるのも分かります。
しかし、交渉が合意したのに満足度が低いペアがあったり、逆に交渉決裂となったのに満足度が高いペアがあったりもします。合意したのに満足度が低いペアに話を聞くと、「あまりお互いに提案することができなかった」といった答えが返ってきます。また決裂したのに満足度が高いペアに話を聞くと、「合意はできなかったが、お互いにたくさん情報交換ができた」と言った答えが返ってきたりします。つまり、合意したかどうかではなく、交渉プロセス自体が満足度を決める要因にもなるのです。
実は、交渉における満足度は「交渉結果」と「交渉プロセス」からなると言われます。つまり、交渉で自分が納得できる良い「結果」が得られたかどうか、だけではなく、交渉相手と良いやり取りができたか、ということも満足度に大きく影響しているわけです。
参加者のなかには、ロールプレイングの最中に紙を二人の真ん中において、一緒にブレーンストーミングをはじめたり、またホワイトボードを持ち出して、そこで議論を整理し出したりする人もいます。このように、お互いの意見やアイデアを書き出してみることで、議論が見える化され、それが交渉プロセスの満足度につながることもあります。
交渉研修では、結果の満足度ではなく、むしろプロセスの満足度を高めることに主眼を置いています。なぜなら、交渉プロセスが良くなれば、当然に結果もついてくるはずですし、また自分の成果ばかり気にしたら、相手から奪う交渉(いわゆるWin Lose 型交渉)に陥ってしまうからです。何より充実した交渉プロセスは交渉者相互の信頼関係の構築にもつながります。
ただ、注意が必要です。交渉プロセスは「明るく・楽しい」のが良いとは限りません。皆さんも実際の交渉の現場で経験があるかもしれません。厳しく長い交渉ののち、何とか双方が受け入れられる合意条件を見つけ出し合意した瞬間、交渉相手が、「敵」から「同志」になります。一緒にこの厳しい戦いを乗り切った仲間になり、信頼関係もうまれます。
良い交渉プロセスのためには、お互いが本音をぶつけ合い、必死に解決策を練り上げることが必要であり、その実現のためにはお互いが相手の本音を冷静に聞き入れる度量をもつことを忘れてはいけないのです。
望月 明彦氏
望月公認会計士事務所代表
特定非営利活動法人 日本交渉協会常務理事
ディップ株式会社監査役 (東証1部上場)(現任)
アイビーシー株式会社監査役(東証1部上場)(現任)
日本公認会計士協会東京会 研修委員会 副委員長(2010~2014)
経済産業省コンテンツファイナンス研究会 委員(2002~2003)
早稲田大学政治経済学部卒。
監査法人トーマツを経て、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了。
その後、上場企業の経営企画部長として資本政策の立案・実施、合弁会社の設立、各種M&Aなどを手掛ける。
さらに、アーンストアンドヤングの日本法人にて上場企業同士の経営統合のアドバイザー等を務める。
2010年より望月公認会計士事務所代表。日本交渉協会常務理事。
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