窪田恭史氏による交渉学Web講座
人の認知は確率判断が苦手である。今回は、確率判断における認知バイアスとして、「連言錯誤」、「基準比率の無視」、「少ないサンプルの予測力の過小評価」を取り上げる。
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ベイズの定理と直感的な推論がずれることの有名な例に、「モンティ・ホール問題」と呼ばれるパラドックスがある。モンティ・ホールとは、“Let‘s Make a Deal”というアメリカのバラエティ番組の司会者の名前であり、同番組を例にした以下のような問題である。読者は選んだドアを変えるだろうか?それとも、そのままにするだろうか?
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ある事象Aが起こったという条件のもとでの事象Bの確率(条件付き確率)が成り立つ定理を「ベイズの定理」といい、18世紀の数学者、トーマス・ベイズによって示され、その後、ラプラスによって再発見・発展した。意思決定論とは、ある情報を得て次にどの行動をとるのが最善かを決める理論のことであるが、その決定にベイズの定理を用いた意思決定をベイズ的意思決定という。
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科学とは「コンセンサスを通じて科学的真実を定義する、本質的に社会的なプロセス」であり、証拠は主観的世界観、あるいは科学者がある時点で受け入れている信念に照らして評価される。クーンはそのような科学を「正常科学」と呼び、「一つまたはそれ以上の過去の科学的成果、ある特定の科学界がさらなる実践の基盤を提供するものとして、一時的に認めている成果に基づいた研究」と定義している。この「成果」をクーンは「パラダイム」と呼び、科学界で採用されるには、その他の科学研究領域からの支持者を引き付けるため、前例がなく、研究者が探求し、パラダイムを構築するための未解決の問題を残していなければならないと主張している。
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従来の期待効用理論を批判する形で起こった「プロスペクト理論」、およびそれを土台として発展した行動経済学は今や隆盛を極めている。カーネマンが「損失回避の概念は行動経済学に対する心理学の重要な貢献である」と述べているように、行動経済学の中核概念は、利得よりも損失を避けようとする人間の心理傾向、「損失回避性」であるが、この損失回避性については、近年批判も出始めている。
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Q3’、Q4’は、Q3、Q4の利得を損失に変えたものであることが分かる。Q4’の方は損失の期待値がやや低いDを選択した方がわずかに多かったので、これは期待効用理論の観点からも理解できる。問題はQ3’の方である。Aの方が損失の期待値がわずかに大きいが、それにもかかわらず圧倒的多数の92%がAを選んだのである。これはどういうわけであろうか?カーネマンらの説明によれば、人は損失を嫌う、したがって、確実な損失を回避するため、リスクをとる傾向にあるというものである。
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期待効用理論で考えれば、AとB、CとDの確率的利得の比率は、共に16:15である。つまり、選択されるのはAとC、BとDのいずれかであるのが合理的である。そして、期待値はAとCがいずれも高いので、AとCが合理的選択となる。ところが、実験結果はBとCであり、しかもQ3では80%という圧倒的比率でBが選ばれた。考えられるのは、Q3については前回同様、損失回避性により確実な方が選ばれたということ、Q4についてはどちらも当たる確率が低く、両者の確率の差も大きくないので、そうであれば金額の大きい方に賭けてみようというものだ。
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ライファはカーネマンやトヴェルスキーの主張するプロスペクト理論を否定してはいない。期待効用理論が現実の人間行動を上手く記述できないことも認めており、”Negotiation Analysis”の中でも行動意思決定論の研究成果をしばしば取り上げている。それでもライファは、より良い意思決定を行う手法として期待効用理論は依然として有用であると考えており、1985年に”Back from Prospect Theory to Utility Theory”という論文を著している。交渉分析において、交渉相手の行動や戦略を記述的に説明したり予測したりするには、行動意思決定的分析が優れており、その上で交渉当事者が意思決定の処方を下すための規範を示すのには従来の決定分析が優れていると、それぞれ役割が異なるとライファは考えていた。
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前回述べたように、期待効用理論は現実の人間の行動を説明するものではないとする批判も多い。その先鞭ともいえるのが、「アレのパラドックス」である。1988年にノーベル賞を受賞した、経済学者のモーリス・アレは、1953年にニューヨークで行われた会議において、以下のような実験を行い、実際の人間が期待効用理論には従わないということを示した。
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経済学者のフランク・ナイトによれば、リスクとは「確率が分かっている不確実性」を言い、確率が分からない真の「不確実性」とは区別する。代替案にリスクがある場合、その代替案がどのような結果となるかは、確率的にしか分からない。起こる結果の価値分析の方法には、「定性的順序」、「貨幣価値」(EMV)、「望ましさの価値」(EDV)、「効用価値」(EUV)の四つがある。
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ミラーは帰結表を作り直す(表1)。表を眺めると、3つの代替案については通勤時間がほぼ同じであることが分かる。バラノフの通勤時間が等価交換で25分になれば、代替案すべての通勤時間は同じになり、目的から外すことができる(これは期待効用理論における独立性の公理と同じ考え方である)。ミラーは、バラノフの通勤時間の増加分をクライアントへのアクセスの8%の増加で埋め合わせることができると決定する。慎重に検討した結果、彼は交換を行い、通勤時間を無意味にする。
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意思決定において、すべての目的を同時に達成できればよいが、常にそのようにできるとは限らない。その場合、目的間でトレードオフを行い、いかに妥協をするかを考えなければならない。しかし、トレードオフを行うのは容易ではない。トレードオフを難しくしている要因には、以下のようなものが挙げられる。